論文執筆者:
ブルネイ・ダルサラーム国通信省航空局気象データ&気象情報センター
気象予報士 シドゥプ・ビン・ハジ・シラバハ博士
1. 序
モンスーン・サイクルに基づいて、5月は、南西モンスーン(6月〜10月)が始まる前のモンスーン移行期(インター・モンスーン)に分類される。
通常、この期間中におけるこの地域の大気の循環と風の流れは(特に低地レベルにおいて)、方向性が定まらず、弱いものである。
それにも拘らず、日中における特有の変化は、インター・モンスーン期間中(4月〜5月)、特に夕方と夜明け前の時刻において、著しい雷雨の活動を伴う活発な対流性の降雨量を引き起こす傾向にある。
平均して、6月は、気候学的に南西モンスーンの始まる月である。
このシーズン(6月〜10月)は、南西から北東まで蔓延して、スコールが発生することで有名である。
これらの発生は、北西太平洋と南シナ海における熱帯のストームトラックに帰するものである。
同時に、このシーズン中、ブルネイは、越境してくる煙霧に影響されやすい。;低地レベルにおける南西モンスーンの風の流れにより、隣国州のソース地域からブルネイを含むボルネオ北西部沿岸地域に煙霧を運んでくる傾向にある。
太平洋の海面温度(SST)を異常に低くするラニーニャ現象は、2009年4月中に終わっている。(これは、米国の国家環境予測センター(NCEP)及び英国の欧州中期気象予報センター(ECMZWF)といった権威ある気象予報センターの大多数が予測したものである。)これは、ブルネイにおけるモンスーンによる降雨活動が、‘標準よりやや下’から‘標準’の方へ更に移行しそうである。
2. 降雨量傾向
ブルネイは、最近の雨季、特に2008年12月から2009年2月初旬にかけて非常に活発なモンスーンによる降雨活動を経験した。その結果、累計の月別降雨量は、長期の平均降雨量(1979年〜2008年)を遥かに超えた。
ブルネイ国際空港(BIA)気象ステーションにおける毎月の降雨量は、2009年1月に977mm(平均は271.1mm)、2月に309.8mm(平均147.6mm)、3月に247.4mm(平均121mm)、4月に212mm(平均219.5mm)を記録した。
2009年1月から3月までの降雨量は、明らかに標準(平均)を超えている。これは、BIA気象ステーションだけでなく、全国の色々な気象ステーションでも同じである。
2009年1月〜4月の4ヶ月間におけるBIAの各月の総降雨量の割合は、360%(1月)、210%(2月)、204%(3月)、及び96%(4月)であった。
ブルネイが2009年1月から2月中旬に経験した先例のないモンスーンの降雨活動のシナリオは、多かれ少なかれ1963年1月の強いモンスーンのシグナルに似ている。その月は、サラワク州、ブルネイ、サバ州を含む北西ボルネオの低地の多くは、洪水により水浸しになった。その年は、全ての主要降雨量ステーションで、標準値を超えた。即ち、クチン(1165.3mm)、ビントゥル(1280mm)、ミリ(1734.6mm)、セリア(1260mm)、及びコタキナバル(703.3mm)だった。1963年1月において、コタキナバルを除く殆ど全てのステーションは、1000mm以上の降雨量を記録した。
北東のモンスーンが急増し、低地レベルの風の収束による湿気の収束(ブルネイでは、‘ボルネオの旋風’として知られている)、及び北部インター・トロピカル収束ゾーン(NITCZ)に沿った両半球間の風の収束のような、幾つかの気象学上のスケール・フォーシングが、1962年12月〜1963年1月の期間と2008年12月〜2009年1月の期間の2回の最も湿った北東モンスーン・シーズンにおいて、通常のモンスーンの降雨活動を超えた主因である。
これとは別に、特に2009年1月における長期の平均降雨量(1979年〜2008年)を越えた最近の先例のない降雨量は、ラニーニャ現象に依るものであった。この現象は、中部太平洋及び東部太平洋で海面温度が平年より異常に低くなることであり、エルニーニョ現象とは全く逆の現象である。
ブルネイにおいてラニーニャ現象の影響は、平年より降雨量が増えることである。
しかしながら、2009年4月中旬以降、ブルネイでは活発な天候ではなくなり、僅かにドライになってきた。
同時に地表面温度は、通常より暑く、特に日中は暑い。絶対最大温度が33度Cから35度Cの間を行き来している状態である。それは、熱帯地方の大気の循環に影響を及ぼすマッデン・ジュリアン振動(MJO)に相互に関係している。
MJOは、主にインド洋と西部太平洋のまの赤道域で観察され、強力で抑圧された熱帯の対流性の降雨が、広い地域で東進する特徴がある。
3. 毎月の降雨量の分類
表1.毎月の降雨量の分類
分 類
毎 月 の 総 降 雨 量
標準以上
長期平均降雨量より40%以上増加した場合
標準よりやや上
長期平均降雨量より20%以上40%未満増加した場合
標準
長期平均降雨量よりプラスマイナス20%未満の場合
標準よりやや下
長期平均降雨量より20%以上40%未満減少した場合
標準以下
長期平均降雨量より40%以上減少した場合
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